桑のある暮らしの復活
古野さんは、「なんとか桑を活かせないものか」と考えました。
桜江町はかつて島根県最大の養蚕産地だったのです。
「町は農業を活性化しようと、新しい作物の栽培を奨励していました。ですが、ここの土地は桑栽培にあっていますし、育てる技術もたしかなものがあるのです。そこで遊休桑園を利用して、有機桑を栽培しようと思いました」
ただし、桑を生産しても用途がなくては困ります。古野さんは、養蚕以外の桑の用途を調べ、桑茶に思い至りました。桑茶はもともと養蚕家が自家用でつくっていた健康飲料です。ですが、学術機関での研究がすすむにつれ、桑の葉に含まれるDNJという成分に、血糖値の抑制効果など、生活習慣病を予防する効果があることがわかりました。
古野さんのアイデアに、桑畑の再生を考えていた町も、支援に乗り出しました。古野さんは農家から桑畑を借り、乾燥機、焙煎機などを導入し、1998年に「桜江町桑茶生産組合」を設立。いまでは往時の桜江町の風景が蘇ってきました。
初夏の時期、肥沃な土壌で育った桑は、力強い生気を発散します。農薬を一切使用しない畑で生産された桑の葉は、ひとつひとつ丁寧に人の手で摘み取られ、清流で洗浄されます。上質な桑茶の成分を損なわないよう、48時間かけて低温で乾燥し、風力選別機で葉の部分と枝部分を選別。葉のパッケージは人が手と目をつかって丁寧にパッキングしていきます。桑の葉は軽く、お年寄りにも作業は容易で、高齢化が進む中山間地にも適していました。