第8回オーライ!ニッポン大賞

2010.12.28

平成22年度に実施しました、第8回オーライ!ニッポン大賞の結果についてご報告致します。

第8回オーライ!ニッポン大賞の結果について


 第8回を迎えました本表彰事業は今年度、全国より86件の応募を頂くことができました。ご応募内容は、日々のご努力とご尽力で長年の実績を重ねられているもの、また今の時代のニーズにマッチした新しい交流の形を創り出しているもの、若い世代の柔軟なアイデアで精力的に取り組んでいるものなど、取り組みの1つ1つが、大変内容が深く、各地において「都市と農山漁村の共生・対流」(人・もの・情報の行き来)の動きが、着実に前進しているという手応えを感じております。
 子ども達に農林漁業の大切さ、自然環境の素晴らしさを伝える活動、学生と農山漁村地域が共に課題解決に取り組む活動、集落維持や耕作放棄地解消の取り組みから交流事業や環境活動に発展している取り組み、女性のアイデアや行動力で商品開発・販売など地域の元気を生み出す活動など、交流に留まらず、広く地域活動に波及する内容の事例が多く見られました。
 今年度ご応募を頂きました内容について、審査委員による事前書面審査、並びに平成23年1月21日、2月24日と開催致しました審査委員会の結果、グランプリをはじめ入賞 については下記のとおりとなりました。

オーライ!ニッポン大賞グランプリ(内閣総理大臣賞)
ふるさと体験学習協会(岩手県久慈市)
オーライ!ニッポン大賞
特定非営利活動法人 塩谷町旧熊ノ木小学校管理組合(栃木県塩谷町)
東京農業大学 多摩川源流大学(東京都世田谷区)
財団法人紀和町ふるさと公社(三重県熊野市)
いこま棚田クラブ(奈良県生駒市)
オーライ!ニッポン大賞 審査委員会長賞
砥山農業クラブ(北海道札幌市)
しずおか体験教育旅行(静岡県静岡市)
NPO法人 豊田・加茂 菜の花プロジェクト(愛知県豊田市)
いなべ市農業公園(三重県いなべ市)
特定非営利活動法人 いえしま(兵庫県姫路市)
いなかインターンシップ(高知県高知市)
オーライ!ニッポン ライフスタイル賞
中村成子さん(島根県奥出雲町)
白松博之さん(山口県阿武郡阿武町)
オーライ!ニッポン フレンドシップ大賞
特定非営利活動法人かみえちご山里ファン倶楽部(新潟県上越市)
農業生産法人 株式会社信州せいしゅん村(長野県上田市)



オーライ!ニッポン大賞グランプリ(内閣総理大臣賞)

ふるさと体験学習協会(岩手県久慈市)
エコトレッキングの様子

 久慈市は太平洋に面し、約30万本の白樺群生林、クマやムササビなどの野生動物が棲むブナやミズナラの原生林が広がる平庭高原、伝統の海女漁などが行われる小袖海岸など、山・里・海に囲まれた自然豊かで多くの伝統文化が残る街である。平成12年度から旧山形村が、過疎化対策の一環として交流人口の拡大による地域の活性化を目的に取組んだ教育旅行の受入事業を引継ぎ、旧久慈市との合併を機に、平成18年度にふるさと体験学習協会を設立。地元、行政、旅行会社、学校との連携を強化するとともに、体験プログラムの開発を行いながら、教育旅行や体験活動の受入れ推進を図っている。原生林等を活用したエコトレッキング、森の一部をまるごと学校に貸し出し、専門家の指導の下で枝打ちや間伐など木の育ちやすい環境整備を行う林業体験、森林の中を車椅子でも散策できるようボランティア精神に基づくフォレストボードの設置、首都圏と地元の子ども達が交流して行う自然体験キャンプ、直接民家の方とふれあう民泊体験等、豊富な体験プログラムを通じて、交流によって生まれる心の温かさや信頼感、机上では得られないことへの気づきの提供を目指している。また日本短角牛の産直を契機に始まった首都圏消費者グループとの交流ツアーでは、生産者宅への民泊、自然体験、郷土料理作り等で生産者と消費者が結びつき、産直が継続されている。行政主体から行政との連携による民間主体の取組みとなり、また受入れも飛躍的に増加。平成17年度4校1,190人、同18年度は6校2,500人、同19年度は13校4,980人、同20年度は16校5,477人、同21年度は16校5,447人、同22年度15校5,446人、6年間で25,000人を受入れ、交流事業を通じて地域住民の意識変化・意欲高揚につながり、地域経済の活性化、地域コミュニティーの活発化に大いに貢献している。
 行政主体から行政との連携による民間主体の取組みとなり、各主体との連携を強め、教育旅行の受入体制を強化。また首都圏消費者グループとの交流も行うなど、取組の内容の普及性、継続性、モデル性、オリジナリティも高く、他地域の参考となる点が数多くある点が評価された。



オーライ!ニッポン大賞

特定非営利活動法人 塩谷町旧熊ノ木小学校管理組合(栃木県塩谷町)
施設の外観(校門より)
間伐材で看板づくり

 塩谷町熊ノ木地区は、水田や畑、山林等の豊かな自然に囲まれる中山間地域で、平成12年度冬期に環境庁が実施した「全国星空継続観察会」で星のみえやすさが観測地点中トップになるなど、星空も美しい地域である。平成11年3月に廃校となった熊ノ木小学校を宿泊型体験学習施設(星ふる学校「くまの木」)として再生し、その運営を地域内外の住民で組織するNPO法人塩谷町旧熊ノ木小学校管理組合が担い、都市農村交流を核に活動している。体験メニューは、自然体験、伝統工芸、農林業、郷土料理など35種類、主に塩谷町在住のボランティアが50名ほど登録して指導している。農林業体験では、単発のプログラムだけではなく通年型会員制の蕎麦づくりやパン小麦栽培等も実施。また平成20年度から、くまの木を滞在・宿泊や自然体験の拠点に、横浜市内の小学校の修学旅行を受け入れて、地域の約20軒の農家が農業体験や生活体験を提供している。地域内での活動も盛んで、小中学生を対象に「くまの木自然クラブ」を組織し、自然観察や野鳥観察等を実施。年間プログラム作成や観察会の指導には、栃木県立博物館も協力している。背後の里山の整備・保全活動を行う「くまの木里山応援団」では、毎月1回、町内外19名の団員が活動している。宿泊施設運営事業は、平成14年度(開業)1,890名であった年間宿泊者数が、平成22年度は6,000名前後となる見込みで、平成22年11月までの合計数は、宿泊者数35,909名、体験学習参加者数20,514名。宿泊者の98%が町外在住者、全体の65%が首都圏在住者である。運営面では、常勤・パートを含め常に10名程度を雇用。その他にも、くまの木コンサートの開催、地域通貨や地域農産物の積極的な利用や、落ち葉での堆肥づくり、食品ロスの削減、米のとぎ汁の利用など環境を意識した取組も行っている。
 廃校の再生利用に地域住民が運営主体となり、地域の資源を活かした取り組みを実践。ほとんどがリピーターであることから居心地の良さも伺える。交流人口も増え、雇用を創出しているなど、地域の活性化に貢献している点が評価された。


東京農業大学 多摩川源流大学(東京都世田谷区)

 地域と大学が協力し、本物体験を学ぶ人材育成の場として多摩川源流大学が誕生。多様な専門分野の学生による体験教育(農環境教育)を展開し、多摩川上流域・源流域の再生を進めることを主な目的に活動している。一番の特徴は、大学の講義で学んだことが、実体験で学習できる点で、広く浅く農林業を学ぶ「基礎コース」では、様々な分野の専門家を招く座学と農家体験などの実習を行い、知識と経験を有機的に繋げている。2年目以降の「応用コース」では、更なる専門的な技術を学ぶために、学生がコースを選択する仕組みで、年間を通じて同じ講師から学ぶことから、密接な関係ができ、地域についてより多くのことを学ぶことが出来る。地元住民が講師であることから、学生と住民が直接コミュニケーションを取れて、地域のファンになる学生も多い。廃校となった小学校を再生利用して、小菅村全体をフィールドに授業を実施しているが、平成22年度からは下流域で活動する団体に参加して流域課外活動を実施し、鬼怒川や鮫川など他流域の活動にまで連携が広がっている。このような取り組みから、授業だけで年間延べ300人を超す学生が参加しており、源流大学開講からこれまで約5,000人近くが活動に参加している。この授業は全学部、全学科、全学年が対象のため、普段林業や農業に触れることのない学生も参加し、座学で学べない技術や地域課題の現状などを体得している。昨年度から地域住民と学生が一緒に村の新しい特産品「マコモタケ」を栽培、また自主的に活動を行う学生有志団体「源流放課後の会」が誕生して、住民と一緒に田んぼの再生に取り組み、収穫した米を学校給食に提供するなど新たな展開に繋がっている。
 都市部の大学と山間部の自治体が連携し、都市農村交流を進めている好例で、学生のための授業ではあるが、地域住民を講師に招いたり、共に作業して新たな展開を作るなど、地域活性化にも貢献。今後の農山漁村の担い手の育成の場としても大いに期待できる点も評価された。


財団法人紀和町ふるさと公社(三重県熊野市)
22年度畦塗り体験
22年度田植えの集い

 熊野市の文化遺産である丸山千枚田の保全を市から委託され、地元の丸山千枚田保存会とともに、棚田の保全活動を行っている。慶長6年(1601年)には2,200枚あったとされる千枚田も、平成初期には530枚までに減少し、その大部分が荒れた状態であったことから、丸山千枚田の復元を目的に(財)紀和町ふるさと公社を設立。当時、旧紀和町が鉱山の閉山により、観光の町への転換期でもあり、行政と地域住民が協働で、木の伐採、切り株の掘り起こし、石積みの修復、床作りなど手作業で取り組んだ結果、平成5年から5ヵ年をかけて810枚の復元に成功し、現在は1340枚の日本一の棚田の景観を作り出している。平成8年度からは復元した田の一部を利用し、保全活動の支援を目的に棚田オーナー制度を開始。15年目で延べ1591組(7.510人)が登録し、都市と農村の交流が図られているとともに、日々休むことなく棚田保全活動が行われている。また年間を通じてオーナーが訪れるよう、畦塗り作業、虫おくり行事、案山子作りなど昔ながらの農作業体験と伝統行事の充実にも努めている。設立当初から生産加工販売を行っている「梅干、味噌、高菜漬け」に加え、熊野市の新たな特産品として「熊野地鶏・香酸かんきつ新姫・さんま醤油」の生産加工販売にも着手し、熊野ブランドの確立や地域雇用の場として役割を果たしている。平成11年には経済的支援が行える「丸山千枚田を守る会」制度を発足、また公社が管理する3.8haのほ場で収穫される千枚田米の販売、丸山千枚田フォトコンテストの開催と入賞作品によるカレンダー販売等により、丸山千枚田の保存活動費を創出している。棚田オーナー制度の拡充で年々交流人口は増加。地元住民とオーナーの交流、またオーナー同士の交流なども深まり、丸山千枚田の支援の輪が強く広がっている。
 地域と行政が協働して手作業で棚田を復元し、日本一の棚田の風景を創り出している。棚田オーナー制度や年間を通じた農作業体験の受入などで交流人口を増やし、また地域雇用の創出を生むなど地域経済にも貢献している点が評価された。


いこま棚田クラブ(奈良県生駒市)
菜の花まつり
稲刈りイベント

 生駒市西畑町は、生駒山を越えて奈良と大阪を結ぶ暗越奈良街道に面しており、遣唐使が通った道とも言われる地域である。この由緒ある景観を残そうと地元住民が「西畑棚田を守る会」を結成したが、20世帯80人の集落では力不足で困っていたところ、自然環境や植物生態系等を学ぶNPO法人シニア自然大学校内で有志を募り、「いこま棚田クラブ」を設立。講座修了生を中心に、毎週1回の定例活動やイベント等の特別活動を含め、年間70日以上は現場で活動を行っている。会員は約70名で毎回30名程が参加。行政の支援は受けず、民間ボランティアと地域自治会が協働で棚田の再生を行っている点が特徴で、棚田の休耕田の草刈り(3ha)や石垣出し、休耕田を利用したそばや大豆の栽培・作業支援のほか、小学生対象の棚田里山体験や大学生対象の里山実習の自然環境教育として、またシニア自然大学校講座生が年間90名ほど訪れる教育実習の場としても活用している。奈良県の委嘱を受けて毎年0.5haの里山林(向山)で行う間伐や枯損木の整備、椎茸栽培や林内遊歩道つくりなどは、近畿大学農学部の学生も参加して実施している。奈良コープと共同で休耕田に栽培する菜の花から油を採取し、廃油をBDF燃料へ利用するエコサイクルを構築し、畝起こしから脱穀までをイベントとして開催、また菜の花の棚田は新たな観光スポットにもなっている。棚田の活気が地域へも伝わり、神事である大どんとが40年ぶりに復活、菜の花まつり等のイベントでの地元の農産物を販売など、共同草刈りや収穫祭等で住民が集まる機会も増え、地域の活動も活発になってきている。直近1年間(2009年11月~2010年10月)の活動実績は、定例会53回(延べ1503名)、特別活動41回(延べ2766名)と活動回数も参加人数も増加している。
 毎週1回、年間70日以上、現場に通う地道な活動を積み重ねにより、地域活性化に大い貢献している。シニア世代や都市住民の田園自然再生に向けたボランティア活動の模範的事例として評価された。



オーライ!ニッポン大賞 審査委員会長賞

砥山農業クラブ(北海道札幌市)
棚撤去作業

 八剣山の麓の砥山地域は、札幌市の中心部から車で40分ほどの果樹を中心とした農村地域である。平成12年に8戸の専業農家が「農産物の高付加価値化や札幌市民を地域に招き入れた新しい農業経営の確立」を目的に、砥山農業クラブを設立。砥山地域の知名度を高めるためポスターや看板の製作、地域農産物の試食会を実施。平成13年には札幌市内の菓子店と、地域で収穫されたイチゴを使ったお菓子づくり「いちごクラスター」の取組みを開始。平成14年に更にアイデアや実行力を高めるため多方面に協力を呼びかけた結果、様々な業種の方々が参加した八剣山発見隊が設立され、砥山農業クラブの活動への支援・協力・提案、インターネットによる地域情報の発信などに大きな役割を果たしている。平成15年には八剣山発見隊の提案で、小学生とその家族を対象とした農業体験学習の場「砥山農業小学校」を開校した。平成22年10月の大雪では600本のリンゴの木の幹や枝が折れて実を付けたまま雪に埋もれたほか、2箇所のブドウ棚が雪で倒壊する大災害が発生したが、翌日からの3日間で30人を越える八剣山発見隊の隊員が駆けつけ、落下したリンゴの収穫や倒壊したブドウ棚の復旧作業を行った。この様子がテレビや新聞で報道されると、200人を越える市民が集まり復旧作業に携わった。10年にわたる市民との交流で、農家と市民の間に深い信頼関係が築かれた成果である。平成19年からは定山渓温泉観光協会と協力し、ホテルや旅館から出される生ゴミを堆肥化して地元農家がその堆肥を利用し農産物を生産して提供する地域内リサイクルを実現するとともに、より安全安心な農産物の生産地域をめざし、砥山農業クラブの全農家がエコファーマーを取得するなど、市民に信頼される農業の構築をめざしている。
 10年にわたる都市住民との交流の中で、砥山地域のファンを確実に増やしている。専業農家が交流を通じて、地域農産物の付加価値つけ、エコファーマーの資格を取得するなど積極的に都市住民との共生をめざして取り組んでいる点が評価された。


しずおか体験教育旅行(静岡県静岡市)
漁港体験
農家体験(お茶)

静岡県中部エリアに国内・国外の教育旅行を誘致しようと、民間が主体となり産官学の協力体制のもと、小学生・中学生を中心に体験旅行や修学旅行の誘客活動を行っている。静岡ならではの産業、文化、歴史など各地域で素材を掘り起こし、体験学習プログラムを商品化し、勉強会を開催しながら地域ごとのコーディネーター(世話人)を育成するなど、住民を巻き込んだインストラクターの養成と研修会を行っている。年に1~2回、教員自ら静岡地区のよさを体感して貰うため、学校の教職員を対象としたモニターツアーを開催、その他にもパンフレットやDVD等も作成し、学校や旅行会社に提供している。受け入れ活動としては、予約窓口を行い、各地区への連絡や手配、精算業務を補助するワンストップサービスを実施。農山漁村地域に体験学習を導入するにあたっては、当初は受入体制が出来ていないこと等を理由にほとんどの地区から断られたが、サクラエビ漁で有名な由比漁港組合長の決断で最初の学校の受け入れが始まり、今では漁師が家族ぐるみで児童を受け入れて漁師料理体験等を提供している。これが県内の先進的事例とって報道されると、他地域でも受け入れを希望する声があがり、アマゴの養殖、椎茸栽培、ワサビ田を利用した農家発案の食育体験メニュー等が誕生。各地のJA、漁協及びグリーン・ツーリズム協会等が教育旅行を軸に連携し、静岡地区として更に組織力と受入体制が強化。従来の民間宿泊施設と併せて農家民宿を利用する学校や漁家に民泊を希望する学校が現れている。早くから訪日教育旅行にも取り組んでおり、VJC訪日事業の採択(2回)で実施したファムトリップの効果から中国、台湾からの教育旅行誘致に成功している。2009年度の教育旅行受入実績は、横浜市の小学校42校、八王子市の小学校30校である。
 早くからアジアのマーケットにも目を向け、受入の取り組みも教育旅行と明確で、関係者の連携もしっかり積み上げられている点が評価された。


NPO法人 豊田・加茂 菜の花プロジェクト(愛知県豊田市)

2005年「あいち万博」の開会式で、会場を菜の花で埋めた菜の花プロジェクトが話題になったことをきっかけに任意団体として発足し、2007年にNPO法人豊田・加茂 菜の花プロジェクトとして設立。菜の花をキーワードに遊休農地の解消、持続可能な資源循環型社会の構築を目標に活動を行っている。会員は消費者、農家など愛知県内に約60名、賛助会員は農機具メーカー、食品会社等の18社が参加している。2009年より豊田市共働事業として、遊休農地を活用した市民農園を開設。個人への貸し出しのほかに、年4回、農業体験塾を開催している。毎回60名近くが参加し、農の楽しさや難しさの体験を通じて、自然への感謝や地産地消の重要性など、食に対する意識の向上を図ると同時に、遊休農地の活用でフードマイレイジを減らすことが出来るなど環境と農業と食の関係を学んでいる。耕作放棄地を借り受けて、リサイクル有機肥料で土地を肥やして国産の菜種を生産し、圧搾一番絞りで薬品を使わない純地元産菜種油「豊田・加茂のなのはな油」を生産。また小中学校の出前講座では、1年間を通し、菜の花を題材に、栽培、廃食油の利用(手作りせっけん、BDFの体験)、菜の花料理、菜種の収穫・搾油等を実施して環境について教えている。現在、搾油用菜の花(約15ha)、観賞用菜の花(約20ha)など40~50haの耕作放棄地が解消、菜種の生産は、平成22年度は10t。農地を保全したいという地主から農地を借り受け菜種の生産を行っている。また、豊田スタジアム周辺約6haを、豊田スタジアムと協力して、豊田市民の憩いの場、観光地としての位置づけも確立しつつある。年に3回程度イベントに参加して菜の花を使った料理の試食等でPRを行い、毎回約5,000人がブースに立ち寄っている。なのはな油の販売もイベントや生協等の販売を通じて年々増加しており、売上げは活動資金として活用。今後もなのはな油の販売を増やすことで、活動も栽培も広げて環境保全や食の安全、農業を盛り上げて行きたいとしている。
 地域の消費者・農家等の個人、多数の企業が連携し、地域課題である耕作放棄地解消や環境問題に積極的に取り組み、資源循環型社会の形成に寄与している点が評価された。


いなべ市農業公園(三重県いなべ市)
公園のおじいちゃんとおばあちゃん
梅まつり

いなべ町(旧藤原町)は三重県の最北端に位置し、名古屋、桑名、四日市等から車で約1時間の位置にある中山間地域である。藤原町鼎地区は、昭和46年~昭和56年にかけて中里ダムで水没した農用地の代替農地として県営農地開発事業で造成された畑地であったが、生産物の価格低迷、若年労働者不足、猿害等で生産意欲が減退して荒廃化が進み、一時は工業団地として企業誘致が検討されたが、バブル崩壊の影響や工業用水不足等で企業進出が見込まれず、また農村活性化土地利用構想が期限切れになること等から、平成8年に、この土地を農業公園にする土地利用構想を策定。当時の藤原町は高齢化率27%と非常に高く、今後の更なる高齢化社会を見据え、高齢者のやりがいと生きがいを創出することで、介護保険・医療費の削減に繋がることを目指し、高齢者の活動の場の創出、循環型社会の実現、農業振興、都市との交流の4つを柱に「スローなまちづくり」を合い言葉に農業公園整備に着手。公園の計画・設計・施工の全行程を地元の高齢者が担い、38haの梅林公園には、庭園、クラインガルテン、ブルーベリー園等を配置、18haのエコ福祉広場は四季折々の花広場やハーブ園、パークゴルフ場などを設置した。公園内で収穫する梅でジュースやジャム等の梅加工品を開発・販売し、パッケージは滋賀県成安造形大学と連携して作成している。平成21年に開業した農業レストラン「フラール」では、地元の直売所や農家から仕入れる野菜、園内で栽培する梅や地鶏等をビッフェスタイルで提供している。また農業の持つ福祉的機能に着目し、ボランティアの協力を得て、後期高齢者向けの園芸福祉青空デイサービスを実施。仲間達とのコミュニケーションづくりや、植物等の世話などで生きがいの創出を図っている。公共の道路や河川敷の草刈りや剪定枝を有価で農業公園に受け入れて堆肥化して再利用、家庭から出る廃食用油を回収して精製(BDF)し、園内の重機やゴミ回収車等の燃料として利用するなど地域循環型の仕組みを創出。梅林100種類4,500本、ぼたん約35種類5,000本は東海エリア最大級の規模で、入園料を徴収するぼたんまつりや梅まつりには共に約20,000人以上が訪れる。平成21年度には、湯の山温泉女将の会の提案で、宿泊者にヘルシーなイメージのある梅ジュースを提供したいと女将自ら梅を収穫して梅ジュースを製造し、温泉街で販売を行うほか、平成22年からは園内にドッグランを整備し、新たな集客を図ると同時に、鳥獣害から集落を守る里守り犬を育てる取り組みも始めている。
 地域の高齢者が元気に活躍する様子は、高齢化の進む地域への参考となると同時に、地域住民と行政が信頼しあって進める内容は、集落自立を目指す政策の中でますます重要であると評価された。


特定非営利活動法人 いえしま(兵庫県姫路市)

姫路市の沖合、高速船で25分の瀬戸内海に浮かぶ家島諸島は、東西26.7km、南北区18.5kmのエリアに大小44の島で構成され、そのうち有人島は4島で、人口は合わせて約7000人である。家島地区は、これまで採石、海運業、漁業を基幹産業に発展してきたが、景気後退や公共事業の縮減、市町村合併の影響で、島の経済や元気は低迷。このような状況を解決しようと、地元主婦が立ち上がり、2006年にNPO法人いえしまを結成し、島の基幹産業である漁業と新たな観光を結びつけて、特産品づくりから観光・まちづくりへ繋げる活動を行っている。特産品供給システムを通じた交流で家島ファンを増やし、継続的に家島に訪れてもらう仕組みの構築を目指し、大阪の千里ニュータウンにおいて家島の海産物を販売。商品のパッケージやショップカードに生産者や生産方法に関する情報を掲載して家島の情報を積極的に発信した。さらに特産品購入者等を島に招き、漁業見学、島民の案内による島内散策、特産品の生産・加工現場の見学、漁業体験、島民との交流会等を行うモニターツアーを実施。現在、このツアーを継続的に運営するため受入体制の準備を進めている。空き家を活用したゲストハウスの整備や、島内観光の窓口となってガイドやツアープログラムの提案、ゲストハウスの運営等を行ういえしまコンシュルジュを、2009年に一般公募して現在11名が活動している。即売会や生産地見学ツアーを通じた双方向の交流により、家島と千里ニュータウンには強いつながりが生まれている。また島民も、主体的に活動に提案・参加するようになった。今後は、自然環境を守ることを意識したツアープログラムを開発して里海保全活動に展開することで、島民と都市住民が協力して海の環境再生に取組む仕組みづくりを目指している。
 島の元気を作ろうと地元の女性が立ち上がり、地場海産物の販売からツアーの実施、そして継続的活動のための交流拠点づくりや受入整備など、地道で積極的に活動している点が評価された。


いなかインターンシップ(高知県高知市)
スマイリーやすこ

過疎高齢化等の課題で悩む農山漁村地域と、ニートや引きこもり、離職率の高さや意欲低下等で象徴される若者たちの現状の解決策として、2006 年から嶺北地域5町村で、若者と地域をつなぐ「いなかインターンシップ」を開始。若者がそれぞれ受入先での目標を立てて、2週間~2ヶ月程度農山村に滞在し、地元の住民に学びながら、農業や林業、観光などの仕事を担っている。この取り組みには、高知県内の大学生を中心に、京都府内や東京都内、また海外や専門学校など幅広い学生が参加。若者が地域に暮らすことも重要な活動の一部で、商店やお世話になる宿の大家さんなど様々なコミュニティの中での暮らしを体験している。受入がスムーズになるよう、過去に参加した学生達がツアーやイベント等を開催し、新たに参加する学生と地域の出会いの場を作っている。1週間未満の短期滞在は「プレインターン」と位置付け、長期に参加する母体づくりや、プログラムづくりを行っている。またインターンシップ終了後も活動を続ける場合は、オーバーインターンとしてその後の活動を支援。2006 年から2010 年夏までに延べ250 名の学生が参加しており、高知大学、高知工科大学、武蔵野大学では、教育プログラムの一環として、いなかインターンシップを活用して単位化している。本やお菓子、お酒など、インターンシップの取り組みから商品が生まれたり、バイオマスや福祉、商品開発等の新しいプロジェクトが始まっている。2009 年からは、高知県が移住対策の一環として「ふるさとインターンシップ」をスタートさせ、本活動の実施主体である人と地域の研究所が委託を受けた。2010 年には嶺北地域以外の6地域で地域づくりをテーマにしたインターンシップを行い、高知県内11 市町村で若者と地域の協働が始まっている。
 地域と若者を結びつける取り組みは、農山漁村地域の課題、若者を取り巻く環境や課題の解決につながる可能性があり、このような動きが全国的に広がることの期待も込めて評価された。



オーライ!ニッポン ライフスタイル賞

中村成子さん(島根県奥出雲町)
奥出雲料理教室
稲刈り

中村成子さんは東京都出身。主婦の目線で作ったおやつが注目され、1987年に出版した「お弁当絵日記1000日」がベストセラーとなり、以降は料理研究家として活躍。「始末の心」を大切に素材の味を引き出し、ぬくもりある家庭料理を伝えている。中村さんが奥出雲町に出会ったのは、1999年に知人から届いた仁多米の素晴らしさを知ったことに始まる。奥出雲を訪れると、美しい里山に広がる棚田には豊かな土壌と水、そして日中の寒暖の差など、米作りの最高の条件が揃い、牛の堆肥で土を作り、収穫した稲穂は竹竿で組む「はぜ」で天日干しするという日本の食の原点が残っていた。2001年に築250年の古民家を改修し「ふれあい交流館一味同心塾」を開館。当初から館長に就任し、食の根幹を見直す活動をライフワークにしながら、1年の半分以上を奥出雲町で過ごしている。33アールの自然農法の実践田では、地元農家で米づくり委員会を立ち上げ、無農薬による昔ながらの仁多米づくりを実践・伝承し、「稲のはな」と銘名して支援者に届けている。この米づくりは農業体験の場にも活用され、田植え、稲刈り、収穫祭には東京を始め、関西や近畿、海外からも参加者が集まってくる。その他、農産加工グループへの地元食材による調理やお弁当づくり、一般料理講習による地域特産品活用の指導など、一味同心塾は地域の食の活動拠点にもなっている。開館当時から地元小学校高学年を対象に課外教室として料理教室を開催し、自然の素材の味を伝え、生きるための食の美味しさと楽しさを共に学んでいる。また2004年からは、山の環境は海と密接な関係にあることから、隠岐海士町の「食の学校」と塩や梅干し作りを通じて総合交流を始めるなど、現在は活動10年目を迎え、米づくり委員会を中心に新しいコミュニティが生まれ、同時に仁多米のブランド化の推進する流れの中で、米や農産物と地域間の交流を担っている。命と自然の大切さと向き合いながら、地域の原点である農と食を通じて、中山間地域の文化や暮らしの価値を発信している。


白松博之さん(山口県阿武郡阿武町)
白松夫妻
炭窯づくり

白松博之さんは、長く林業を営むとともにキノコ狩りや山菜狩り、都市に出向くイベント等も手がけ、野菜の生産も地域でも1番を誇る中、1998年に高所での枝打ち作業中に転落事故に遭い、車椅子での生活を余儀なくされた。そこから白松さんの「出来ること探し」の挑戦が始まり、まず過疎化した地区の山林を買い取り、農地や宅地を借り上げて「あったか村」を建設。町内の間伐材、塗装は柿渋を使い、誰もが安心して過ごせる場所を目指し、現在も進行中。2005年には、念願の農家民宿を開業し、地域資源を活かした体験交流プログラムや自家製が中心の料理の提供、なにより白松夫妻の気さくな人柄から人気の宿となっている。民宿開業を機に、より地域活性化効果(経済効果+生きがい効果)の高い滞在型・通年型の交流を目指し、子ども農山漁村交流プロジェクトの受入協議会の会長として、コーディネートから受入先の確保まで自ら率先して取り組み、JICA研修などの外国人の受入も地域ぐるみで実践している。滞在型の交流を契機に、様々な情報やネットワークが構築され、町への活気へ繋がり、新しいことのチャレンジも増えている。また月に1家族程度が移住するなど定住の流れも生まれ、町の定住アドバイザーとしても活躍している。自身のホームページや自動車会社が運営する交流情報サイトにブログを開設して情報発信を行うなど、地域づくり全般にわたって、リーダーとして仕掛け人として積極的に関わっている。田舎には探せば必ず宝物がある。地域の人が田舎の魅力に気づいてプラス思考になった時、どんな田舎でも何か素晴らしいことが起こるのではないか、その信念で活動を続けている。ともに頑張っている妻の紀志子さんは、平成20年に農林漁家民宿おかあさん100選に認定された。転落事故のあと、寝返りを打つことから始まった「出来ること探し」は、地域に幾つもの輪をつくり、大きなうねりとなっている。現在は、阿武地域グリーン・ツーリズム推進協議会を自立的・継続的に運営するため、社員研修、ワーキングホリデー、大学生のインターン等、ターゲットの幅を広げての受入体制の整備やNPO法人化も検討するなど、更に活動を発展させるための体制づくりに取り組んでいる。



オーライ!ニッポン フレンドシップ大賞

特定非営利活動法人かみえちご山里ファン倶楽部(新潟県上越市)
地域の講師と楽しく田んぼ作業
講師に稲のまるけ方を教わる

かみえちご山里ファン倶楽部は、平成13年度に調査された「伝統生活技術レッドデータブック」で当たり前に続けていた技術や文化の多くが数年で消えてしまうという事実が数値で現れ、自然の荒廃だけでなく、生活技術やコミュニティまでが衰退の危機にあることが共通認識となったことが大きな機動力となり、地元80名が発起人となって平成14年度に設立。「人間が生存に必要な資源の自給」を「10のまかない」とし、地域で生きるための本質的な活動が、中山間地域が抱える課題解決と新たなコミュニティ創造に繋がると考え、地域内で起こることや課題全てを活動の対象に、基本理念である「山里の自然、環境、文化、地域産業を『守る・深める・創造する』」の精神で取り組んでいる。現在8名のスタッフがおり、年間40~50程度の地域行事や共同作業への参加とその様子の調査や記録、年間を通じて環境教育施設や水源森林公園の運営管理等を行うほか、環境教育事業、登山道整備・林道整備・市道除雪事業等の地域振興にかかる事業も受託している。平成16年度からインターンシップの受入れを始め、これまで60名以上の学生が訪れている。資源の余剰を活用し、小規模で多様な手仕事産業の創出を行うさまざまな事業を展開し、その中でも、NPOが借り受けた放棄田で地元講師から米作りの技術を学ぶ棚田事業(「棚田学校」「有縁の米」)には、市街地や首都圏から年間延べ200名程度が参加。また年間を通じて古民家の改修等に取り組む「ことこと村づくり学校」では、その卒業生が学んだ技術を活かし、自分で家を建て移り住む計画を進める人も出てきている。子ども向け環境教育・生存教育事業では、「自然と折り合いをつけて生きる作法」を学ぶコンセプトにプログラムを開発。その暮らしを生きた形で伝えるため地域住民が先生となり、スタッフはその技術や文化の通訳者として動けるように専門知識の習得とトレーニングを行っている。これこそが日本の環境教育の形として発信し、運営する2施設をあわせて小・中学校を中心に、年間1万人以上が訪れるなど高い評価を得ている。その他にも、伝統行事再現事業(「横畑集落伝統行事『馬』」「里の結婚式」等)、「村に一流を」文化事業(「月満夜の神楽」「高橋竹山コンサート」等)など、生存技能や地域文化を学ぶ場として企画し、収益が地域コミュニティの維持に還元できる仕組みになるよう取り組んでいる。NPOの活動を支える人々や連携団体は多岐にわたり、毎年講師や調査等で協力を得る地域の方は100名程度、地域行事、作業に関しては、町内会、地域協議会、青年団などの地域団体と連携がかかせず、文化活動や商品開発は、地元生産組合、神社組合、小・中学校等との協力で成り立っている。


農業生産法人 株式会社信州せいしゅん村(長野県上田市)

信州せいしゅん村は地域住民が運営主体となり、行政からの財政的な支援を受けずに『前例のないことを独創的に』と様々なアイデアで農村と都市の交流事業を展開。モットーは【共に野山を遊び、祭りに加わり、大地を耕す】で、常に来た人と一緒になって遊び働き、50・100年後の農村の中山間地農村の存続を願って、都市住民の方々に来てもらうことで成り立つ『サービス提供型農村』を目指しています。交流を進めるには、美しい農村景観や環境の維持が必要であるとの認識のもと、荒廃農地の解消・再生を積極的に取り組んでおり、荒れた桑園の復畑に希望者を募り、「せいしゅん村開拓団」を結成し、8反分を開墾し蕎麦を育て、そば道場も開催。食の風物詩「寒さらし蕎麦」の商品化で蕎麦焼酎を製造特許申請するなど、商品開発・販売に繋げている。移住希望者にはふるさと回帰予備校を開講し、農業や農村の現状等の本音から、移住の手順や準備、体験談や失敗談、地域との付き合い方等を詳しく手ほどきを行っている。 2006年からは「ほっとステイ」参加者へのアンケート調査結果から「癒され感」の数値化を計り、信州大学感性工学科の協力のもと、農村体験には「癒され感」を向上させる効果があることを実証。この癒し効果を「農村セラピー」と呼び、アンケート数値は『生き方満足度』なので、この数値を『セラッチ』と呼称し、ネット上で体験のビフォーアフターを計測できるシステムを立ち上げ、『セラッチ』を活用して更なる農村振興を図ることを目指し、長野県の支援のもと、県下全域に呼びかけて、農村セラピー協会の設立を行った。 「ほっとステイ」には海外からの訪問者数も増加しており『国際青少年交流農村・宣言』を行い、アジア諸国等から2010年は1,021人が訪れた。またイオン労働組合が定期的に訪れたり、東京の楽団員約30人が訪れて、施設訪問や無料コンサートを開催する等の新たな交流も生まれている。これまでの来訪者数は延べ40,000人を超え、「人々に来てもらうことで成り立つ農村」としての自信も生まれ、受入れ家庭数は延べ121軒、常時受入れが可能な家庭は60軒を超えている。「ほっとステイ」の受入れ組織(民間)が長野県下7地区の市町村に広がり、「長野県ほっとステイ協会」を組織化し、年間11,000人以上を受入し、周辺地域の活性化にも寄与している。