経済の成熟化、都市化を経た今日、社会は大変便利で豊かなものとなった。しかしその一方で、コンクリートに囲まれた社会生活の中では、土、水の匂いや感触、せせらぎの音、そして人と人との息遣いといった、本来、人間生活に必要であったものが失われ、生きていることの実感が得にくくなっている。
このため、都市住民をはじめとする多くの国民の間には、豊かな自然に満ち溢れ、「いのち」を育むとともに、生活の場として地域住民の温もりが感じられる農山漁村において、「生きる力」を養うことへの期待が高まりつつある。特に、次の世代を担う子供たちが身近な自然と農林漁業に親しみながら、のびやかにたくましく育っていくことは、活力に満ちた21世紀を築いていく上で非常に重要な課題である。
こうした動きを背景に、学校教育においては、総合的な学習の時間を活用して農林漁業体験や自然体験学習に取り組む学校が徐々に増えているほか、旅行分野においても、これまでの名所・遺跡巡りから体験型旅行への流れが着実に進んでいる。また、週末を市民農園で家族とともに汗を流す人、退職後、田舎に暮らしたい、農林漁業にたずさわりたいと希望する人が確実に増えており、さらに、こうした都市住民のニーズを農山漁村につなげるNPOなどの活動は全国的に拡大している。まさに都市住民が農山漁村へと向かう新しい動きがあらわれつつある。
その一方で、食料生産の場であるとともに、このような重要な役割を期待されている農山漁村においては、人口減少、高齢化が進行し、地域の活力が停滞していることから、地域住民が自分たちの住む農山漁村の魅力を再認識し、都市的な生活様式や文化も取り入れながら、都市との交流を進め、それを地域の活性化につなげていくことが期待されている。
このように、各分野で、様々な主体により都市と農山漁村の交流への取組みが行われつつあるが、現状ではそれぞれ個別の取組みに終始していることから、大きな潮流としていくためには、民間企業、NPO、公共団体等が相互に連携して、都市と農山漁村の間で、お互いの魅力を享受できるような互恵的な関係を構築し、「人・もの・情報」が循環する状況を創出すること、すなわち、都市と農山漁村の共生・対流を進めることが必要である。
本推進組織は、このような視点に立って、関係者が共通の理念の下で連携を図り、都市と農山漁村の双方の生活及び文化を享受する新たなライフスタイルの普及・啓発を行うとともに、体験型・滞在型旅行の企画・提案、体験学習に係る農山漁村と学校との連携強化、都市と農山漁村をつなぐNPO活動の活性化などの取組みを促進し、都市と農山漁村の共生・対流を推進するために設立するものである。