秋田県が行う「秋田発・子ども双方向交流プロジェクト」では、異なる環境に暮らす子ども達の出会いや交流による人間性や社会性の育成、都市と地方の相互理解などをねらいに、都市の小学生が秋田の農山漁村地域を訪れて農山漁村体験を行い、秋田の子ども達が都会に出かけて都市体験を行う、双方向での交流を行っている。
平成20年7月に、当プロジェクトをスムーズに進めるため、教育関係者、PTA関係者、農家民宿経営者、NPOや民間企業、行政等で構成する『子どもの輝き応援団』を設立。子ども達の交流のサポート役として、総合的なコーディネート、交流の効果・成果の検証による学校や受入先へのアドバイス、ホームページを通じての情報提供などを行っている。
この取り組みの特徴は、秋田の小学校と首都圏の小学校がペアを組み、子ども達が互いに行き来しあう点にある。美郷町立千屋小学校と港区立御田小学校の交流は33年間継続されている、本プロジェクトの元となった代表的な取り組みで、毎夏に御田小児童が2泊3日で千屋小を訪問。大台山の登山、魚の掴み取り等の自然体験、農作業体験、絶滅危惧種「イバラトミヨ」の保全活動、秋田の方言による昔語り等を体験し、3~4人のグループに分かれて千屋小児童宅16軒に民泊する。一方、千屋小児童は8月に2泊3日で東京に滞在。御田小周辺の散策、東京在住の千屋小出身者の講演(ようこそ後輩 講演会)、屋上プールでの交流、お寺での宿泊や御田小児童宅への宿泊等を体験。高層マンションの生活や銭湯での入浴など、秋田では経験できないことを体感し、東京生活の苦労や自分の住む良いところの発見など、新たな気づきが見られている。
仙北市立西明小学校と文京区本郷小学校との交流では、冬期に本郷小児童が仙北市を訪問し、雪国ならでの遊びや地域の代表的な小正月行事「紙風船」の作成・風船上げを体験。一方、西明寺小児童は秋季に東京を訪れ、秋田で採れる食材がどのように消費者まで届いているか「食の追跡体験」を実施。学校畑等で収穫した農作物に児童のメッセージを入れ、経路をたどり、最後は自らがスーパーで販売する体験まで行っている。
双方向交流型の子ども交流の成果は、子ども達の成長だけに留まらず、地域全体で子どもを育てる意識の醸成、首都圏在住の秋田県出身者とのつながり強化などに広がっている。
また「子どもの輝き応援団」により、学校長自ら首都圏校に呼びかけを行い、双方向交流を実現させた事例も生まれており、平成22年度には12市町村において首都圏受入を検討するなど、取り組みが全県的に広がりをみせていること、双方の地域が一体となって取り組んでいることなど様々な効果が生まれてきている点について、今後、各地で子ども農山漁村交流を進める上での先進事例になりうるとして評価された。
秋田発・子ども双方向交流プロジェクト推進協議会
「子どもの輝き応援団」
秋田県
地域づくりインターンの会
東京都新宿区
地域づくりインターンの会(以下、インターンの会。)では、都市部の学生と農山村地域の人を結ぶきっかけづくりとして、主に首都圏に住む学生が夏休みに2週間から1ヶ月間、農山村地域に滞在し、地域の人と一緒になって地域づくり活動や交流プログラムに取り組む活動を実施している。その内容は農作業に始まり、お祭りの手伝い、集落点検活動、観光施設の活性化に関するサポートなど、集落維持に関する活動から地域づくりに関わる事など多岐にわたる。学生達は地域への提案も積極的に行っており、地域パンフレットや特産品のパッケージに活用されたり、宮崎県高千穂町では、まちの寄り合い所となる施設の改修施工を行う事例まで出てきている。
インターンの会では、受入までのプロセスを大切にしており、受入地域と学生との出会いの場として、毎年6月1泊2日の派遣地決定会を開催。地域担当者からインターン内容の説明、ブースに分かれての相談会など、受入地域と学生がじっくり話し合う時間を設けた上で、学生に希望地を書いてもらい、地域担当者と事務局でマッチングを行う。この行程により、お互いが理解した上での受入体制となり、安心感を持つことが出来ている。
その他にも派遣前には、心得を学ぶ事前学習やOBOGとの交流を持つことで、スムーズに派遣活動に入れるようなサポート体制をつくっている。派遣後には、東京に受入地域の担当者などを招いての報告会を開くほか、地域で活動した内容と地域への感謝の思いをまとめた「たびぼうず」という冊子を自主制作し、地域に里帰りする際お世話になった人へ手渡しで渡すようにしている。
また、インターンの活動に参加する地域と学生のネットワークが濃密に形成されており、学生同士、地域同士、地域と学生など、派遣地域だけではなく、他地域との交流にも発展するケースも見られ、新たな事業展開へつながっている。
インターンの会の運営は、学生事務局による自主活動で行われており、1年間の派遣プログラムを経験した学生が翌年以降、事務局として参加し、全てのイベントの企画・運営、情報誌の発行などを担当する。資金も学生や地域からの会費を財源として運営しているが、決定会や地域での活動、また報告会などをサポートする代々のOBOGの存在は欠かせない。
学生達のインターンの会での経験は、人材育成にも効果をうみ、人とのコミュニケーション能力の醸成に繋がると共に、自分が地域の為に何かできないかという気持ちを生み出すきっかけとなり、定期的に通ったり、また大学の学園祭にブースを出展し地域のPRを行ったりするなど活発に活動している。
これまでに10年間で延べ217名の学生を派遣し、派遣先の農山漁村は12地域で、多くの地域は7~10年間継続して事業を実施している。学生の受入までのプロセスがしっかりとしており、その内容は汎用性に富んでいること、また、地域において学生との交流は世代間・地域間を超えたサポーターとして存在感も大きく、双方に良好な刺激を与えている点が評価された。
松崎町石部地区棚田保全推進委員会
静岡県松崎町
松崎町石部地区は、伊豆半島の駿河湾に面した半農半漁を営む地域で、約18haの棚田を有していたが、作業の機械化、過疎高齢化などの農業環境の変化とともに、近年では放棄され原野化していた。また、好景気と相まって栄えた40軒程あった民宿も景気低迷で半分となり、地域の活力は衰退していた。
平成11年に、鉄道もないなど交通条件の不利な地域において何が出来るか話し合いを行い、本来地域の活力であった棚田を復活し、先人から受け継いだ地域の宝として、棚田を中心とした地域活性化を図ろうと、石部地区棚田保全推進委員会を設立。農道もなく、重機も入らないなど、昔のままの姿を残している石部地区の棚田を、カマと鍬を使った昔ながらの手作業で複田。旧字名を活かし「赤根田村 百笑の里」と命名し、都市農村交流人口を増やすことを視野に入れた棚田保全活動を開始した。平成14年度から、「棚田オーナー制度」を取り入れ、海水浴場や温泉施設など周辺観光施設との連携も図りながら集客活動を行っている。
開始当初60組だった会員数は、平成20年度には100組を超え、その7割が首都圏から訪れており、田植え祭や収穫祭時には、オーナーが家族・友人を連れて訪れ、一度に300~400名が参加する。その参加の8割近くが近隣で宿泊し、その半分は石部地区に宿泊している。
その他、棚田保全活動には、多種多様な主体が参加している。平成15年度からは、富士常葉大学の学生が農業体験に訪れ、当初3名ほど年に1~2回の活動だったが、現在では一度に50名程が参加して、畦切り、穴埋め、草刈などを行っており、活動回数も年に4~5回になるなど、今では地域の強力な助っ人となっている。
また静岡県が推進している「一社一村しずおか運動」により、県内の企業やボランティア団体の7団体が継続的に活動に参加している。平成18年度からは大手製薬会社のCSR活動を受け入れており、その他にも環境NPOの作業支援や助成金の交付など行っている。
集客の目玉として、棚田の景観を美しくするために古代米を作付けしている。その収穫物である赤米・黒米を活用し、地元商工会や県内企業との商品開発を行い、焼酎「百笑一喜」を販売。売れると1本あたり15円が棚田保全活動費として寄付される仕組みになっている。
平成11年の活動開始以来、現在までに4.2haの棚田が復活、学生、企業、NPOなど年間約2000人が訪れており、様々な主体が参加して交流を図っている。また地元組織・企業と連携を図り、商品開発による自己財源の確保、また棚田イベントでの集客による周辺観光施設への効果など、手作業による棚田保全活動を通じて、取り組みに広がりがある点が評価された。
農業法人株式会社秋津野
和歌山県田辺市
秋津野の地域づくりの原点は、昭和32年に旧上秋津村所有の700haにも及ぶ村有財産を守ろうと、所有権を移すために設立した県内初の社団法人上秋津愛郷会の結成から始まっている。1980年代半ばには、地域内の都市・混住化が進展してきたことから、これからの地域のあり方を考えるため、平成6年に「秋津野塾」を設立。地域の全ての団体が加盟し、全住民の幅広い合意形成の場として、各団体が連携・共同しながら「地域力」を高めることを目標に、農業生産や生活基盤の整備、担い手の育成、地域文化の伝承など、コミュニティと経済活動を一体化させた取り組みを実践した。
その後も地域の環境変化に対応すべく、和歌山大学との協働により、住民へのアンケートやヒヤリング調査等から、今後10年間の基本方針をまとめた「上秋津マスタープラン」を策定。多様な主体との連携を図りながら、地域が自立し、住民主体の地域づくりの実践を目指し、平成11年に開催した「南紀熊野体験博」を契機に、自分達の作ったものを直接消費者へ届けたいという思いを形にし、地域住民の自主的な活動拠点施設として、農産物直売所「きてら」を開設。平成16年には規格外のみかんを果汁ジュースとして商品化しようと、1人50万円を出資し、2500万円を投資して、農産物加工施設を設置するとともに、「俺ん家ジュース倶楽部」を結成。これらの背景には、地域づくりは経済面も伴わなければ長続きしないという考えがあり、平成21年現在、「きてら」への出荷登録者は270人、売り場面積20坪で、1億1500万円の売上高となっており、収入源の確保、兼業・高齢農家の出荷先確保、就業機会の創出などに繋がっている。
平成14年、地元木造小学校の移転を契機に、これを活用して農とグリーン・ツーリズムを活かした地域づくりの拠点として活用することとし、地域内外から出資を募り、平成19年に地域づくり会社「農業法人 株式会社秋津野」を設立し、レストラン、宿泊施設、市民農園等の事業に取り組んでいる。地域の女性約30名で運営するバイキング形式の農家レストラン「みかん畑」は、地産地消・地元食材にこだわり、オープンから1年で4万人を超える利用者で賑わっている。滞在型宿泊施設「秋津野ガルテン」は、32人が収容でき、各部屋にトイレ、浴室、キッチン、冷蔵庫など整備。その他に、みかんの樹オーナー制度、農作業体験・加工体験などを実施しており、利用者の増大を図っている。また、これまで進めてきた地域づくりの情報やノウハウを普遍化・一般化するとともに、次世代の後継者に引き継いでいくため、「秋津野地域づくり学校」を開設している。
これまでの地域づくりの歩みから、年間11万人の交流人口を創出。地域の雇用にも貢献しており、パートも含め、約70人が働いている。その他、直売所や体験料金収入などから農家収益も確保されてきており、地域の経済にも貢献。地域資源を活かし、自主財源を確保するなど、他の模範とすべきコミュニティ・ビジネスの事例として評価された。