川西町は、山形県南部の置賜地方のほぼ中心に位置し、人口1万9000人のお米と米沢牛の生産地で、明治初期にイギリスの女性旅行家イザベラ・バードが書き記した『日本奥地紀行』において、当時の川西町を訪れたときのことを「アジアのアルカディア(桃源郷)」と賞賛したほどに美しい農村景観が広がる地域である。
遅筆堂文庫生活者大学校の取り組みは、川西町出身の作家・劇作家の井上ひさし氏に講演会の依頼をしたことから始まる。昭和57年に、当地で講演を行った井上氏から、小松地区に劇場を創りたいとの申し出があり、その計画は実現されなかったが、昭和58年に井上氏が劇団「こまつ座」を立ちあげ、山形で公演を開始。井上氏との交流がさらに深まる中で、図書館を作りたいという川西町の青年たちの思いを形にしようと、井上氏が所有する7万冊の蔵書が川西町農村環境改善センター2階に運ばれ、井上ひさし氏の雅号を付けた「遅筆堂文庫」が誕生。年間5,000冊ペースで増えており、現在22万冊の蔵書を誇る。
本文庫の校長は井上氏、教頭は山下惣一氏が務め、生活者の視点から農業を学ぼうと「生活者大学校」を開校。講師は、ヘンリー・クリーガー氏(アメリカ)やロジャー・パルバース氏(オーストラリア)など国内外から招き、年に1回のペースで、全国から受講者を募集し、毎年200人以上の参加者が、川西町に滞在している。これまで22年間で参加者は延べ5487人になり、生活者大学校の取り組みは、地域内外に刺激を与えており、定住をする人が出てきたり、福島県、神奈川県への生活者大学校分校の動きへと繋がっている。
また、毎年受入を行う中で、川西町グリーンツーリズム研究会が誕生。地元食材を活用した食事の提供や、受講者の受入など、活動のサポートを行っている。
平成6年に、井上氏と青年達の念願だった演劇専門のホールと遅筆堂文庫が入る複合施設「川西町フレンドリープラザ」が誕生。また平成20年には、地元の洋菓子・パン製造会社が出資し、山形市内にホール機能を持った「遅筆堂文庫山形館」(3万冊)が完成している。
井上氏の出逢いにより生まれた図書館を核に、生活者大学校という交流事業に取り組み、地道な活動がさまざまな効果を生んでいる。(「JTB交流文化賞」株式会社ジェイティビーよりご推薦。)