葛巻町は3年に1度は冷害に見舞われる高冷地、 かつ傾斜地の多い典型的な中山間地域である。これといった産業が存在しない中、地域酪農経営の支援や振興拠点の役割を担い、 酪農を基盤産業として育成するために、昭和51年に(社)葛巻町畜産開発公社が設立された。 粗飼料生産や搾乳牧場での生乳生産のほか、牛乳・乳製品の製造・販売、レストランや宿泊施設の管理運営、 イベントの開催、体験学習や技術研修の受け入れをしている。 特に、畜産生産(生産から加工・販売までの一環)と一体的に実施しているふれあい交流活動では、 昭和55年から行っている酪農技術や牧場管理者の養成を原点として、その専門能力や設備・施設をフル活用した体験学習の場を提供している。
また業務の性質上、平日、休日関係なく、多種多様な研修、見学、視察等の対応ができるよう人員配置を行っている。
平成10年から公社が窓口となって始まった、生徒や学生の滞在期間や希望に沿ったファー、酪農家などと連携して、自然・暮らし・生産など地域の資源を活かした体験学習を受け入れているなど、単に安らぎを与えるだけの交流活動ではなく、「いのち」や「食」の大切さを体感することができる。
平成17年度の公社売上高は11億2千8百万円であり、県内外から約1万8千人の体験学習を受け入れ、視察・見学等を加えると約30万人が訪れている。また公社を中心に、産直施設、農家レストラン、くずまきワイン(第3セクター)への入り込み客も増えて事業収入が増加するなど、地域経済にも大きく貢献している点が評価された。
社団法人葛巻町畜産開発公社(岩手県葛巻町)
練馬区農業体験農園園主会(東京都練馬区)
東京都練馬区において、平成8年に全国初のカルチャーセンター方式の農業体験農園として、第1号が開園。農業者自らが農園を経営し、必要な技術を利用者に伝授するという、これまでの貸付方式による農園とは全く違うシステムによって、農業の初心者でもプロ並の野菜ができることから、利用者・農業者双方にメリットが大きい取り組みとなっている。平成10年には、農業体験農園の拡大や運営の充実・発展を図るために「練馬区農業体験農園園主会」を立ち上げ、現在では園主は12人に増加し、体験農園の全国展開を目指している。また、体験農園の運営・都市住民との交流を基本に他県の農村との交流活動にも注力している。
現在、この体験農園の参加者は約3,000人で、更新時においても90%以上の参加者が引き続いて参加しており、都市農業を支える強力な応援団となっている。また参加者同士での交流も盛んで、新しいコミュニティーが形成されるなど、地域社会においても、新しい動きとして注目され、担い手不足に悩む農山漁村地域においても、地域全体で農地を保全する仕組みとして普及する可能性を秘めている。
この園主会の取り組みは、参加者が農家と共に農作業を行う事により、農家の暮らしや農業の厳しさ、楽しさを実感することで、都市住民と農業とが共生している。このことは、都市部での農業への理解を推進し、単に都市農業の振興というだけでなく、農業や農山漁村地域のショールーム的な役割を担い、都市住民の農山漁村地域へ関心が広がるきっかけに繋がることから、今後の都市と農山漁村の共生・対流の推進を図る上で、重要な取り組みである点が評価された。
株式会社ピッキオ(長野県軽井沢町)
(株)ピッキオは、軽井沢や浅間山麓の山村地域において、野生動植物の調査や研究成果の専門的な知識を活かして、自然や生き物に関するガイドやエコツアー、環境教育などの活動を行っている。「保護管理事業」、「環境教育事業」、「エコツアー事業」、「調査研究事業」の4つの事業をバランスよく展開し、特に人とクマの共存を目指したツキノワグマの保護管理は、良質なエコツアーや環境教育プログラムづくりに活かされ、地域貢献としても成果を上げている。
(株)ピッキオでは、森本来の姿を経済的な価値として高く評価できれば、未来に森を残していけるという考えのもと、「自然を活用する仕組み」と「保全の仕組み」づくりを実践している。様々な動植物の生活にとことん迫るイベントを提供し、それによって、生き物が繋がり合っている森の仕組みやすばらしさを、ワクワクする楽しさの演出を交えて提供。この企画を行う為に、スタッフ自身の学術研究や最新情報を把握する調査研究活動を実施することで、より興味深い視点と専門性の高い知識・情報を盛り込み価値を高め、より質の高いプログラムを提供している。
地域生態系保全と経済性を合わせ持ったシステムは、全国でも環境保全活動が盛んな今、活動を持続するための組織運営の良いモデルであり、専門的知識の中でのエンターテイメント性の高いエコツアーや環境教育プログラムによって、年々参加者も増えている。
観光地である軽井沢の自然に新しい付加価値を生みだし、クマの保護管理活動を通じて、動物と自然と人間の共存できる地域社会を創造している点が評価された。
曽爾村(奈良県曽爾村)
曽爾高原に訪れる観光客を対象として、曽爾村の地域資源をアピールできる曽爾村ファームガーデンや滞在型市民農園「クラインガルテン曽爾」等の施設整備を行い、都市住民が参加できるイベントを開催するなど、観光を軸とした都市農村交流を進めている。
施設整備当初の平成10年から観光客は1.5倍に増加し、施設を運営する(財)曽爾観光振興公社は、売上高が約3億6千万円に伸びて黒字経営を続け、新しい雇用の創出を創出している。団塊の世代が退職を迎える時代に先駆け、田舎でのんびりと農業体験を行いながら、地元の人々と交流を深める都市農村交流を促進するために作られた「クラインガルテン曽爾」では、農業指導や収穫祭等を行うために地元の44戸の農家が「むらづくり推進委員会」を結成して取り組んでおり、年間の利用者は約6,000人に上る。その交流がきっかけとなり、新しい農産物「種無しとげ無し柚」の栽培が始まっている。更に、交流客を対象に、地産地消につなげようと野菜出荷組合が組織され、地元で穫れる高原野菜の生産販売を行い、農家所得向上と曽爾村のPRを目的に販路拡大に取り組んでいる。また商工会女性部では、新たな特産品開発に取り組み商品化し、販売を行っている。
当初は曽爾高原を活用した観光施策であった取り組みは、結果的に地域住民を動かし、地域の活性化に繋がって、曽爾村の魅力を更に高めるものとなっており、都市農村交流によって、過疎地域の自立と活性化が図られている点が評価された。
宇佐市(安心院型グリーン・ツーリズムの新た展開)
宇佐市安心院町では、日本初の「グリーン・ツーリズム推進係」を設置するなど官民協働の推進体制を確立し、大分県や国が規制緩和措置を行うきっかけとなった「会員制農村民泊」の取り組みは日本の「農泊」の実践に大きな影響を与えている。また、農泊を活かし、プログラム化せずに農村生活そのものを体験させる教育旅行受け入れシステムは、県内は下より他県にも広がりをみせ、これらの取り組みは全国でも「安心院方式」と言われ、高い評価を受けている。安心院方式の「農村民泊」は、あるがままの農家などの生活や家を活かし、無理をせず楽しみながら行う事が基本にあり、何もないところからスタートし、まちづくりとしてみんなで取り組んでいる点が特徴である。
またグリーン・ツーリズムの教育的活用を強く意識し、次世代を担う子供たちに農業・農村のすばらしさを理解してもらう事を最終的な目標とし、農村体験学習を受け入れている。現在市内の約60軒の家庭で受け入れを行っており、家族の一員として同じ時間を過ごし、農村の生活そのものを体験させるプログラムでは、統一された体験プログラムでは味わえない安心院ならではのふれあいを重視した新しい形の体験学習となっている。また子供たちの受け入れも会員制の形をとり、「1回泊まれば遠い親戚、10回泊まれば本当の親戚」をキャッチフレーズに、次に繋がる仕組みにもなっている。
農村民泊の規制緩和の先駆けになった事にとどまらず、グリーン・ツーリズムの教育的活用という新しい視点で、常に時代をリードしている取り組みである点が評価された。