かみなか農楽舎は、平成13年10月に旧上中町、企業、地元住民等が出資して設立され、都市の若者の就農・定住を促進し、集落を活性化することを目標に、地域のリーダーとなる若者の人材育成を行うため、新規就農を希望する都会の若者の研修の受け入れと定住・就農の支援を行っている。
研修期間は2年間で、1年目は5万円、2年目は7万円の研修手当が支給され、若狭町農村総合公園内にあるコミュニティ施設で共同生活を送りながら、地元の指導者から農作業の基本を学ぶとともに、農業簿記、機械のメンテナンス、機械の免許、加工技術、営業販売のノウハウなど卒業と同時に農業者として自立できるようなカリキュラムを組まれている。
また、新規就農には、集落での暮らしや地元住民との人付き合いは欠かせないとのことから、地域の総出(掃除)、夏祭り、地区運動会への参加だけでなく、結婚式や葬式へも参列するなど、集落自治活動に参加することも研修の1つとして制度化している。
このような取組を継続するため、農業公社を通じて借り受けている23haの水田で生産した米を、JA出荷やインターネットで直売したり、人材や自然・文化を活かした、都市住民や子どもを対象とした体験活動も企画運営し、年間延べ約3,000人が訪れる収益事業にするなど、農業生産法人としての経営にも努力している。
研修を終えた卒業生には、地元の担い手農家を世話人として紹介するほか、空き家や農地を斡旋。福井県の「新規就農サポート制度」等を活用しながら、農業者としての自立をサポートしている。その結果、平成21年度現在、卒業生24名。うち家族を含むと36名が町内に定住している。そのうち13名が新規就農し、160haの農地を耕作するなど、旧上中町の農地の1割以上は農楽舎やその卒業生がカバーしている。
全国的に後継者不足が課題となる中、行政・企業・地元が資金面・人材面でサポートし、地域に根ざす農業後継者育成の取り組みは、他の模範となるもので、継続的な取り組みにより、若者が地域に定着しており、地域の担い手として期待できる点が評価された。
かみなか農楽舎
福井県若狭町
特定非営利活動法人 ふるさと応援隊
兵庫県南あわじ市
ふるさと応援隊は、淡路島の海に面していない純農村部をフィールドに、過疎・高齢化による地域の様々な課題の解決策の1つとして、都市住民のマンパワーを地域に受け入れることにより、期待する活性化が図られると考え、農村ボランティアの受入、企業農園サポート、就農の支援など様々な農村・都市交流事業(企画・運営・情報提供・受入体制の整備)に取り組んでいる。
活動拠点施設である「薫陶の郷」は、住民から提供された古民家を直接借り受けて整備。交流事業以外にも、地域住民の寄り合いや子どもの学習発表会場等にも利用されている。
具体的事業としては、兵庫県「みどり公社 楽農生活センター」に登録された農村ボランティアの受入を行っており、ボランティアに来る人のライフスタイル実現をサポートしている。
また耕作放棄された農地を復興し、2つの市民農園を開設。市民農園「薫陶の郷」は、主に一般の都市住民に貸し出し、交流拠点施設「薫陶の郷」と一帯となった利用形態により、クラインガルテン的な利用が可能である。市民農園「しづおり」は、利用面積がやや大きい区画で、企業農園として提供している。現在、マイカルユニオン(組合員22,000名)が、社会貢献・スローライフ体験施設として利用契約しており、多くの組合員が訪れ、地域に活力を与えている。さらにマイカルユニオンでは、隣接地に宿泊研修施設を建設中であるなど、さらなる交流が期待されている。
農村ボランティアや市民農園の開設などを通じて現れた、田舎暮らしや就農を希望する者に対し、農村塾などの情報提供や、移住・仕事・農地など受入に必要な生活サポートを行い、現在、6組が定住。また、移住新規就農者で有機農産物生産販売グループ「オーガニック淡路島」を結成し、都市部で行われるイベントへ出店している。現在、新たに古民家を借り受け、独自の新規就農研修施設(3名が居住できる部屋と研修室)を開設するなど、耕作放棄地や空き家対策に正面から取り組み、企業やボランティアなど地域外との連携により、地域に新しい風を吹き込んでいる点が評価された。
黒潮カツオ体験隊
高知県黒潮町
黒潮町佐賀地区では、高知県下ナンバーワンの水揚量を誇る新鮮なカツオを活かし、昔ながらの「カツオのワラ焼きタタキ作り」体験を中心とした交流事業を展開している。
平成12年に、旧佐賀町漁協女性部が、県の事業に企画提案したことをきっかけに、平成13年に農協や商工会の女性部も巻き込んだ「黒潮カツオ体験隊」を結成し、修学旅行等を中心とした体験を受け入れている。「カツオのワラ焼きタタキ作り体験」は高知県内でも比較的メジャーな体験メニューではあるが、佐賀地区では、本事業に賛同する60名以上のメンバーと、平成15年度に開館した「カツオふれあいセンター黒潮一番館」により、一度に200人を超す参加者を受け入れる事が可能である。インストラクターは全て、地区内に住んでいる漁業を引退した人や現役漁師の妻などが従事しており、本物の漁師との交流が訪れる人の心を掴み、「土佐佐賀のカツオはひと味違う」と評判が高い。平成18年5月には、宿泊を希望する声をきっかけに、高知県初漁家民宿を開業。平成21年5月には8件の漁家民宿が営業しており、平成20年度から合計で100名近くの小学生を受け入れている。
平成13年から始まった「黒潮カツオ体験隊」の交流事業は、さらに地域資源を活用した新たな体験メニュー開発に発展している。昭和60年代に製造が復活した天日塩を用いた「天日塩作り体験」、また海洋レジャーや疑似餌「かぶら」作りなどを提供する、若い漁業者が中心となったグループ「遊海」が立ち上がるなどしている。
カツオのワラ焼きという素朴な地域の資源を商品化し、その交流を核に地域の新しい産業として貢献しているとともに、地域内の住民同士の交流が深まり、地域資源の魅力再発に繋がるなど「地域全員がひとつの船の乗組員」であるかのような風通しの良い人間関係の中、活動を推進している点が評価された。
柳谷自治公民館
鹿児島県鹿屋市
平成8年に柳谷公民館長に就任した豊重哲郎氏を中心に、地域づくりの活力源は「人」であることを信念に、子どもから老人まで集落ぐるみによる「行政に頼らないむらづくり」を実践している。
まず、人を動かすには感動と感謝であるとのことから、毎朝流す集落の有線放送に着目し、母の日に都会で暮らす娘から集落に住む母へのメッセージを放送。この感動が集落の仲間意識を高め、現在も柳谷高校生クラブが母の日、父の日、敬老の日の朝に朗読を続けている。
また、「集落の1人1人がレギュラー」として地域再生に取り組んでいる。平成10年に、雑草で覆われたデンプン工場跡地(20a)を集落総出で再生し、「わくわく運動公園」を建設。平成11年からは収益事業に着手し、地域の有志から遊休農地(30a)を借り受け、集落営農として高校生クラブによるサツマイモ栽培を開始。大人達も仲間に加わり、生産活動は年々拡大。平成2年には1ha、収益金は80万円となり、重要な集落の自主財源となっている。
平成12年には、長年の悩みであった家畜の排便悪臭対策解消を目的に土着菌製造を開始。平成14年には自主財源で土着菌センターを建設して、年間約3万㎏の土着菌を製造・販売し、約200万円を売り上げている。平成16年には、土着菌で栽培されたサツマイモを原料とした焼酎「やねだん」を開発。集落プライベートブランド商品として販売し、今では韓国まで販売網を伸ばしている。その他、未来館(そば処)食堂等の収益事業の取り組みにより、平成18年には自主財源の余剰金を集落全122世帯に1万円のボーナスとして還元。その他にも、高齢者宅への緊急警報装置の設置、シルバーカート貸与、小中学生の基礎学力をチェックする「寺子屋」を週1回開講する講師代等にあてている。また、本物の芸術家を迎え入れようと集落内にある古民家を「迎賓館」と名付け、県内外から7人の芸術家が移住。受け入れる条件として、地域のボランティアに参加し、社会貢献に努めて貰うこととし、地元中学生全員が芸術家と交流する取り組みを行っている。さらに迎賓館8号館も完成し、就農を希望するIターン者のための寄宿舎として活用する予定。平成19年からは、毎年5月と11月に、地域リーダー養成を目的に「やねだん故郷創世塾」を3泊4日で開講しており、これまでに全国に96人の卒業生を生んでいるなど、補助金に頼らない、地域ぐるみでの活動が評価された。
有限会社 やんばる自然塾
沖縄県東村
やんばる自然塾は、代表を務める島袋徳和氏が平成7年に区長に就任した際、やんばるの地域おこしは何が出来るか、前向きに話し合う場として「夢づくり21委員会」を設立したことから始まっている。当時、地域おこしに前向きな8名を中心に、「とにかくホラをふこう」と2年間議論と視察を実施。その結果、豊かな自然だけでは人は来ないこと、周辺施設の整備や、立入可・立入禁止区域を明確にした遊歩道の整備など、自然との調和による観光の必要性を学ぶ中で、まずは地域を巻き込もうと、区主催で年6~7回ほどワークショップを開催。
地域の将来像を見据えて、地域内の点検活動など具体的な話し合いを行う中で、地域色が強く使いづらかった運動場を、観光客でも遊べる運動公園に改築。これを区長任期の締めくくりとするはずが、周囲から地域づくり活動の継続を懇願され、「やんばる自然塾」を設立することとなった。
地域が主体でないと地域の自然や環境は守れないこと、また豊かな環境なくしては、活動の継続性が担保できないことから、自然と環境に配慮しつつ、リピーターを創造するもてなしやエンターテイメント的な要素を盛り込んだ、地元目線での体験メニューの開発・提供を行っている。代表的なプログラムは、本島最大の自生マングローブの密生を満喫する「慶佐次川マングローブカヌー体験」で、自然の干満に併せた無理のないツアーである。
また、地元農家や主婦を講師に招いて報酬を払う、手数料無しで地元のお弁当屋さんに発注する、観光スポットを無料で紹介すること等で、地域で連携する取り組みが実現。環境保全の観点から、自然の許容範囲を見定めて観光客を制限することとし、平成16年から、体験費と一緒に環境協力金を預かる仕組みを導入し、20年度分として230万円を行政へ環境保全活動基金として寄附している。
また観光ガイドには、半年以上の研修とOJTを実施し、魅力ある志高いガイドを育成し、参加者アンケートによる改善を行うことで参加者からの高い満足度を得ている。
今後は、この形を他地域にも展開し、地域貢献から社会貢献に繋げることを目標にするなど、他地域の模範的な活動となるべく事例として評価された。